兵庫教育大学 原田碩三

 2000年と1980年の幼児の足を比較した研究があります。その研究の調査項目のすべてが、20年前よりも今日の方が悪化していました。
『子どもの趾(足の指)が曲がっており・浮いています』
母趾が小趾側に曲がっている(図1)子や、逆に母趾が反対足の方へ突き出ている(図2)子が増え、正常な母趾の子が激減(図3−A)しています。趾(ゆび)が浮いて地面に接していない子が10倍近く増えて(図3−B)います。趾が一本も接地しない5歳児(図4)を1999年4月に発見しましたが、3本浮き趾の子は、この6年間いつもいました。彼らはよく転びます。
『土踏まずの未形成児がますます増えています』
足の土踏まずを形成する7つの足根骨(※a)固い骨になるのは幼児期(図5)です。20数年前に、幼児の土踏まずの形成率が70%台に下がったので大きな問題になりましたが、今日の土踏まずの形成率は50%台に激減(図3−C)しています。
土踏まずの未形成児が問題になるのは、土踏まずには、次の1〜4などの機能があり、土踏まずが直立二足歩行をする人間に必要なものだからです。


  立位姿勢のバランスを保つ
    趾(ゆび)の踏ん張る力を強くする
    クッション作用で衝撃を緩和する
    強いアーチで体重を支えて動かす

足の後部を形成する踵骨・距骨・舟状骨・第1楔状骨・第2楔状骨・第3楔状骨・立方骨のことをいいます。

兵庫教育大学 原田碩三

 趾を使うと土踏まずができ、足の裏に丸天井が形成されます。ところが、先に述べたように、最近、多くの子の足の趾が正常に発達していません。ところが、下駄をはくことで、成長期の子どもには

趾が強くなり、半年くらいで足の裏に土踏まずが形成される
  全身の筋力が強化され、体のゆがみが矯正される
  趾からのミルキング・アクション(※b)によって血液の循環が促進される

という効果がみられます。そこで、この度、はいて動くだけで、より足の趾の使用が促進される下駄を作りました。
 
 この子ども用の下駄は、

足の趾が動きやすいように、台に反り(図6)がありません
  運動しやすく、人間特有のアオリ足歩行(※c)ができ、かつ捻挫しにくいポックリ型になっています
  下駄の裏には足へのショックを和らげる丈夫で長持ちするゴム状のものが張ってあるので、コンクリートの上を走っても音がしません

 ただし、下駄の大きさは、踵(かかと)がちょうど台に収まる物を選んで下さい。大きすぎる下駄は斜めばきになって、歩容(歩行の姿勢)を悪化させるだけでなく、けがの元になります。

※b 静脈血を心臓に送り返す筋肉のポンプ作用のことで、ミルク搾りに例えてミルキングという。われわれの血液は心臓の働きによって送り出されるが、かえってくるためには筋肉の収縮による静脈の圧迫が大きな役目をはたす。つまり、運動によって筋肉が収縮するとミルクを搾るような動きで、血液を逆流させない弁をもつ静脈の血流を促す。これによって血液の循環が促進されるのである。
われわれの健康は血液の循環によって保証されている。ほとんどの病気の原因は血液と直接・間接に関係あり、血液の循環によって体の隅々まで栄養が供給され、老廃物が運び出されているのである。ゲタをはいて歩くことは、このミルキング・アクションを心臓から一番遠く、かつ、心臓より低いため血液を還元できにくい趾先から行うことになり、健康の維持増進に大きな意味を持つ。

※c 人間や両生類は足の裏全体を使って歩く足蹠歩行をするが、なかでも人間の歩行は、踵から着地し⇒体重を小趾側で前に移し⇒足をアオッて体重を母趾側に移して⇒母趾・第二趾・第三趾で地面をけって前進する。これをアオリ足歩行といい、足の裏に土踏まずや小趾側の縦のアーチ、趾の付け根部や中足骨・楔状骨部の横のアーチなどによる丸天井が形成されてからできるようになる。この足の裏全体を使う歩き方は幼児期から10歳までに完成する。足の裏に丸天井(土踏まず)ができるには趾の使用が重要な意味をもつ。この丸天井の4つの機能については先に述べたが、われわれが長い距離を歩き続けるためにはアオリ足歩行でなければ無理で、アオリ足歩行ができるためには土踏まずの形成が必要である。ゲタは、鼻緒の前緒を母趾と第二趾ではさんで歩き、地面をけって進む時に趾を反らせるため、土踏まずの形成を促進する。ポックリ状のゲタは、このアオリ足歩行に適しているものである。


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